| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


シンポジウム S04-5  (Presentation in Symposium)

モニタリングサイト1000事業の沿岸域における意義と成果 22世紀に向けた期待【O】
The importance and accomplishment of the coastal part of the Monitoring Sites 1000 Project– Perspective towards the 22th century【O】

*白山義久(京都大学), 青木美鈴(日本国際湿地連合), 上野綾子(日本国際湿地連合)
*Yoshihisa SHIRAYAMA(Kyoto Univ.), Misuzu AOKI(WIJ), Ryoko UENO(WIJ)

沿岸域には多様な生態系が存在するため、その生物多様性を長期間モニタリングするためには、各生態系に最適な手法を統一的に用いたフィールドワークを継続して実施する必要がある。モニ1000では、磯、干潟、アマモ場、藻場という我が国の代表的な4種の生態系を選定し、それぞれに最適な調査マニュアルを策定したうえで、北海道から沖縄までの広い範囲に、生態系ごとに6以上の調査点を設定し、それぞれの生態系の生物多様性を17年間モニタリングしてきた。その結果、アマモ場と藻場生態系は、気候変動の影響を強く受け、アマモ及びアントクメの分布南限付近にある鹿児島県のサイトからは主要なモニタリングの対象であったアマモとアントクメが消失するという衝撃的な現象が観察された。さらに静岡県下田のサイトでもカジメ群落の消失が確認された。また、兵庫県淡路由良・竹野のサイトでは、海藻の被度に大きな変化はないものの、構成種が入れ替わる現象が見られている。一方、磯生態系は気候変動等に対して頑健であるらしく、若干の変化傾向が検出されたサイトが少数あるものの、アマモ場や藻場のような複数のサイトで共通する顕著な変化は今のところ検出されていない。
三陸沿岸のサイトでは、東日本大震災の発生以前からデータが蓄積されていたので、発災の前後で、干潟、アマモ場、藻場生態系が、地震に伴う津波や地盤沈下の影響を強く受けたことを明らかにすることができた。またその後の継続したモニタリングからは、干潟において、種数が地震前を上回るまでにいったん回復したものの、近年の気象災害によって、再度大きな影響を受けたことがわかっている。
海域において、政府主導で生物多様性の長期モニタリングを実施している例は、世界的にも稀有である。今後もこの貴重な事業を継続し、変化の著しい沿岸生態系の生物多様性を保全することに貢献する基礎的情報を取得していくことが極めて重要である。


日本生態学会