| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) S06(O)-06 (Oral presentation)
近年,国内の多くの森林で増加したシカの採食圧などにより林床のササが消失している。しかし,ササの消失が森林生態系に与える長期的な影響は分かっていない。北海道足寄町に位置する九州大学北海道演習林のミズナラ林とカラマツ林において,下層植生が土壌生物の構造や機能,植生の生産性に及ぼす影響を明らかにするために10年にわたる下層除去実験を行っている。本研究では,ミズナラ林の地上部バイオマスの成長量,リターフォール量,細根生産量を測定し,下層植生の消失が純一次生産の配分に及ぼす影響を検討した。試験地はミズナラ (Q)とカラマツ (L) のそれぞれ5 林分に10m四方のプロットを2つずつ設置し,下層植生を除去したプロットをT,除去していないプロットをC と名付けた。地上部バイオマスはLよりもQの方が大きい値を示したが,樹種間ならびに処理間に有意な差はなかった。地上部バイオマスの成長率はQよりもTの方が大きかったが,処理間に有意な差はなかった。ただし,CよりもTで小さい値を示し,成長量の減少はLで顕著であった。地上部バイオマスあたりのリターフォール量はLよりもQで大きかったが,処理間に有意な差はなかった。地上部バイオマスあたりの地上部純一次生産量は成長率と同様のパターンを示したが,樹種間ならびに処理間の差は小さかった。ミズナラの細根生産量はCよりもTで大きな値を示し,ササの除去にともない細根の生産量が増加したことが示唆されたが,消失したササの細根バイオマスを補うほど細根量は増えていなかった。