| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) S06(O)-10 (Oral presentation)
地球温暖化の影響が様々な形で顕在化する中、2023年8月に石川県河北郡の老舗流しそうめん店において発生した大規模食中毒事件では、892人がカンピロバクターに感染した。また、2024年には長崎県天草市天草町の轟の滝およびその周辺で水浴した69人がノロウイルスに感染する事例が報告された。これらの事例では、野生動物の糞便を起源とする病原性微生物やウイルスの混入と、それを助長する気温・水温の上昇が原因として指摘されている。自然水を飲料水として活用する慣習が多い日本では無視できない事例であり、年間登山者数十万単位の高山帯でも同様のリスクが将来的に高まる可能性が懸念される。
本研究は、鳳凰三山周辺を対象に、気温上昇が水源環境と生態系に及ぼす影響を評価することを目的とする。本研究は南アルプス鳳凰三山の標高2000m以上に位置するドンドコ沢源流域を研究対象とし、通年の気温及び水温変化を記録、春から秋にかけて数回の簡易水質調査(COD、窒素、リン)を実施した。また赤外線自動撮影トレイルカメラにより水源に出現する動物を通年モニタリングした。周辺環境の地形と植生はドローン空撮を実施し、概要を把握、高精細オルソ画像地図を作成した。
調査の結果、1987年と2023年の鳳凰小屋(標高2400m)での温度モニタリングにより、最高気温が19℃から21℃に上昇したことに加え、融雪時期が一ヶ月以上前倒し傾向であることが確認された。水源にはホシガラス、コガラ、ホンドリス、オコジョ、テン、ホンドギツネ、ホンシュウジカが確認されたが、積雪時にホンシュウジカだけが撮影記録されなかった。また数年前まで目視確認されたカモシカは撮影記録されなかった。以上からホンシュウジカの行動圏は季節性があり低山域から稜線部までと広く、将来の感染ベクターとなる可能性が懸念された。また高山植生への食害被害も顕著で、お花畑消失による昆虫の激減に伴う鳥類の減少も懸念される。