| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


シンポジウム S06-2  (Presentation in Symposium)

兵庫県における森林生態系保全のためのシカ対策―科学的管理の進展と課題【O】【S】
Deer management for forest ecosystem conservation in Hyogo Prefecture: Progress and challenges in scientific management【O】【S】

*藤木大介, 高木俊(兵庫県立大学)
*Daisuke FUJIKI, Shun TAKAGI(University of Hyogo)

兵庫県では,2006年にSDR法を導入することで,県域スケールでシカによる落葉広葉樹林の下層植生の衰退状況の把握を進めてきた.また,2009年に状態空間モデルによるシカの個体数推定手法を導入し,実態に即した個体数推定が可能となった.2010年以降,計画的な捕獲対策を推進した結果,シカの推定個体数を減少トレンドに導くに至った.しかし,目標とする個体数水準までシカ密度を減少させるまでには至っていない.目標の達成を妨げている要因としては,捕獲目標の達成率に市町間で大きな格差が存在することが挙げられる.捕獲が不十分な市町における捕獲強化が課題である.
 2010年以降の捕獲対策の効果により、下層植生の衰退域の拡大速度は減少している。シカの個体数が減少に転じた市町では、下層植生の衰退の進行に歯止めも掛かっている。一方で下層植生が回復へと転じているエリアはほとんどない状況である。
 下層植生回復を目指すために、下層植生の衰退状況,シカの密度指標の長期広域モニタリング調査データに基づいて、シカの密度変化に伴う下層植生衰退度の応答予測モデルを構築している。このモデルから,シカ密度を十分に低減させれば,長期的には下層植生の回復が見込めることが予測された.予測に基づいて,シカの特定計画では,下層植生の回復を長期目標として定めている.現状の観測からは,準不嗜好性種を主体とした下層植生の量的な再生は達成される見込みはありそうである.
 一方,嗜好性植物が回復するまでのシカ密度の低減は現状では見込みがない。種多様性の回復のためには、生息している植物の大多数を占める嗜好性種の回復が欠かせない.種多様性の回復は,下層植生の再生より困難な課題であり,より低い密度水準までのシカの個体数管理が必要といえる.また,希少種の地域絶滅は,種多様性の不可逆的劣化に直結する.今後は希少種の保全対策を加速させる必要がある.


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