| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


シンポジウム S09-2  (Presentation in Symposium)

実データに基づく安定性地形の推定からキーストーン種を特定する【O】
Identifying keystone species based on data-driven approaches for inferring stability landscapes【O】

*東樹宏和(京大・生命)
*Hirokazu TOJU(GSB, Kyoto University)

超並列DNAシーケンシング等の技術革新により、生物群集構造に関する大規模データを得られるようになってきた。実データをもとにして、群集構造の安定性と動態を評価することが可能となりつつある今、生態学は新たなフェーズを迎えていると言える。理論生態学は、ごく少数種(2~4種)の存在を想定した競争理論や、ランダムな相互作用網でつながる無数の種で構成される群集を仮定した局所安定性解析を柱としながら発展してきた。しかし、こうした「強い仮定」を満たすシステムは、実際の生態系内には存在しない。自然現象の背後に潜む根本原理を明らかにするためには、必要最小限の仮定に基づく柔軟な統計モデルによる実データの分析から根本原理を見出すアプローチが必須である。そこでの発見をもとに、真に意味をなす理論が淘汰されていくであろう。
本発表では、魚類やヒト、植物に共生する微生物叢や、水圏・土壌圏の共生微生物叢に関するビッグ・データ分析の事例を紹介しながら、エネルギー地形解析や時系列因果推論解析が今後もたらすであろう変革について議論する。群集の構造と安定性の間にみられる関係性や生物種間相互作用に関する有向グラフの構造を解き明かすことによって、群集や生態系全体の動態を決定するキーストーン種が浮かび上がってくる。こうした生態学的な分析と並行して、群集を構成する各種のゲノム情報を取得することにより、生物群集の振る舞いを決定論的に解釈することも可能となっていくであろう。異分野を融合した最新の研究について紹介しながら、展望を語りたい。


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