| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


シンポジウム S09-3  (Presentation in Symposium)

エネルギー的な不安定性にもとづいた生物多様性変化の予測【O】
Energetic instability predicts temporal biodiversity change【O】

*角谷拓(国立環境研究所)
*Taku KADOYA(NIES)

レジリエンスの定量化は、撹乱に対する生物群集の応答を理解する上で欠かせない。 しかし、レジリエンスが広域スケールや幅広い分類群を対象とする実用的な生物多様性変化の予測に活用されることはこれまでほとんどなかった。本研究では、群集組成の現在の状態をもとに評価されたレジリエンスとそれにもとづくエネルギー的な不安定性が、野外生態系における生物多様性変化の予測を大きく向上させる可能性があることを示す。具体的には、エネルギーランドスケープ解析を用いて、シミュレートされた生物群集や、様々な地域や分類群を含む野外生態系における群集組成のレジリエンスを推定した。その上で、様々な状態にある群集組成について、エネルギー的な不安定性指標を複数算出し、群集組成の時間変化との関係を分析した。 その結果、特に、現在の群集組成の状態がエネルギー的な観点で局所的な最適状態からどの程度かい離しているかを示す局所的不安定性の指標は、現在から将来の生物群集の状態の変化をよく説明することが明らかになった。本研究の結果は、エネルギーランドスケープ解析においてエネルギー状態が高いと評価される群集は本質的に不安定であり、将来、より大きな群集組成のシフトを生じやすいということを示している。この知見は、生物多様性の変化予測の改善とそれにもとづく先制的な保全戦略の策定に資するだけでなく、群集動態のメカニズムのより深い理解にも貢献することが期待される。


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