| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


シンポジウム S09-6  (Presentation in Symposium)

エネルギー地形解析から読み解く微生物代謝相互作用ネットワークの安定性【O】
Unraveling stability in microbial metabolic interaction networks as deciphered by energy landscape analysis【O】

*高野壮太朗, 鈴木健大, 桝屋啓志(理研BRC)
*Sotaro TAKANO, Kenta SUZUKI, Hiroshi MASUYA(RIKEN BRC)

微生物生態系に内在する複雑な相互作用ネットワークは、多様な微生物種の安定的共存に重要であると共に、医療・農業といった幅広い分野における生物機能の実現を可能とする。とりわけ、微生物群集においては、栄養源の取り合いや代謝産物の授受といった、代謝に関わる競合・依存関係が、相互作用の根幹を成しており、これらの相互作用を一般化した群集動態のモデル化により多種共存を理解する試みが進められてきた。一方、これらの相互作用は個別の微生物に備わる代謝ネットワークの制約を強く受けており、実際の生体メカニズムに基づいた理解を行う上では、個々の微生物の生体反応の情報に根差しながら、群集レベルの挙動を再現可能な、階層をまたいだアプローチが必要となる。
近年、オミクス解析から得られる膨大なゲノム情報を基に、細胞内で起きる様々な生化学反応を一つのシステムとして捉え、それらを群集スケールへ拡張する試みが行われている。例えば、ゲノムスケール代謝モデルを用いたアプローチは、利用可能な栄養源や構成種によって動的に変化する群集内の競合・依存関係をin silicoで再現することを可能としつつある。本発表では、こうしたゲノムスケール代謝モデルを用いたアプローチを取ることで、微生物に備わる栄養源嗜好性の違いが複数種の安定的な共存に与える影響を調べた最新の研究について紹介する。初めに、in silicoでのランダムな進化実験から明らかになった、栄養源嗜好性における偏りや、微生物内部の代謝ネットワーク構造に起因する進化的制約について紹介する。さらに、こうした代謝ネットワークに起因する制約下において、代謝競合・依存関係から生じた微生物群集における安定性を、エネルギー地形解析を活用して評価した新たな試みについて紹介し、生態系を代謝ネットワークの観点から明らかにするアプローチについて議論を行いたい。


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