| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


シンポジウム S10-1  (Presentation in Symposium)

参加行動型研究において、水田の農生物多様性の時・空間の何をどこまで分類する?【O】
Classification in participatory action research on biodiversity in rice paddy : What and to what extent of agrobiodiversity in time and space ?【O】

*日鷹一雅(愛媛大学・院・農学)
*Kazumasa HID(T)AKA(Ehime Univ. Agronomy)

生物多様性は三つのレベル、種・遺伝子・生態系(景観)から成り(プリマック 1997)、分類する際も要である。水田生物多様性は、後背生態系の里山を舞台に、食農システムの文化・社会インフラの時・空間であり、水田研究の歴史も永い。
1) 明治以降から戦前:品種など作物栽培関連、病害虫とその天敵種以外にも線虫等の種記載在り。
2) 終戦後:分類学記載の一方、有機塩素系農薬登場による農薬万能時代到来。農学者の中には効果絶大なる殺虫剤ですべて防除可能、よって分類不要とする見解も。
3) 1970年代:万能主義的な農薬防除に対するリスク評価研究開始。応用昆虫者らが中心になり総合的害虫管理IPM(桐谷・中筋 1977)を提唱。
4) 1980年代:実際的なIPMに向け、農民、市民参加で有機農業とも連動させ行動開始。虫見板による減農薬稲作(宇根・日鷹・赤松 1989)広がる。既存の病害虫防除現場における害虫分類スキルに、天敵とそれ以外の分類群「ただの虫」を加える。生物多様性把握を個体群、群集(日鷹 1990)との関連で、生産者と消費者、生協らと技術者、研究者ら多様なステークホルダーによる地域のフードシステム再構築。日本のアグロエコロジーの先駆的事例(グリースマン 2024)。
5) 2000年以降:土地改良の環境配慮の一方で浸透移行性農薬普及。生物モニタリング事業開始の傍ら、外来種増加。経済的被害許容密度を超えたら防除のIPMの行動規範は破綻。
 現況の「サイレントな里山」に対して、水田と里山の生物多様性の再生には、農と里山の生物モニタリングと在来知に基く管理が肝要。またアグロエコロジーでは食農と密接に結ぶ生物多様性をAgrobiodiversity(農生物多様性)と呼び、農業依存性(日鷹・嶺田ら 2006)や在来食はその事例である。そこで農薬と水田生物多様性の相互関係の解析(SSD:種の感受性分析)の基礎的研究から、今後の市民参加行動型研究は、生物多様性の三つレベルでの分類を創発、相乗を柱に総合的に発展させることが望まれる。


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