| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
シンポジウム S10-3 (Presentation in Symposium)
日本自然保護協会が事務局を務める、モニタリングサイト1000里地調査(環境省事業)は、地域の生物多様性に関心を寄せる約5,700名の市民調査員(2008~2022年度)が主体となって実施し、各地域の生物多様性保全への活用を目指し、植物、鳥類、チョウ類、カエル類、ホタル類等の9項目について、日本全国325か所の里地里山を観測する体制を構築してきた。調査を開始した2005年以降18年間に得られた約298万件のデータを解析し、スズメやイチモンジセセリなど身近なチョウ類・鳥類の個体数の急速な減少や、農地など開けた環境の種の減少が顕著であることを明らかにするなど、本調査は里地里山の生物多様性の現状把握に貢献している。
全国の調査サイトを対象に、調査結果等の活用事例についてアンケート調査を行ったところ、普及啓発活動・保全活動等への活用事例が年々増加し、2022年度には64.8%の調査サイトで里地調査の成果が活用されていた。さらに里地調査の成果活用により、生物多様性の改善に繋がったと報告したサイトも10.7%(18か所)あり、その中で最も多かったものがアカガエル類の卵塊数の回復の4件であり、希少植物保全が3件、防鹿ネットによる植物の回復、カヤネズミの回復がそれぞれ2件、ヘイケボタルの回復が1件などであり、報告された改善事例の多くは、特定の種を対象としていた。
滋賀県において水田の江の設置による保全効果を検証するために、本調査と同じ手法を用いたニホンアカガエル卵塊調査を農家と研究者協働で実施し、その保全効果を共有した結果、翌年には冬季湛水や江の設置に参加した農家数や面積が大幅に増加したこと、その後参加した農家がホタルのカウントとマッピングを自主的に行ったことが報告されている(浅野ら2018)。市民や農家がParticipatory Action Researchを実践する際は、わかりやすい保全対象を設定することが重要であり、水田における生物多様性指標として、アカガエル類やホタル類が有効であると考えられた。