| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
シンポジウム S11-3 (Presentation in Symposium)
同種個体が空間的に密集することで組織される群れは、分類群を問わずさまざまな生物で観察される。群れ形成のモデリングにおいては一般的に、Boids modelのような比較的単純な相互作用から群れの維持や移動の動態が説明されることが多い。一方で、群れ内の個々の個体の活性状態や個体間相互作用構造は時々刻々と変化するものであり、そのような変化のありさまを実データから抽出することで、群れのダイナミクスに関するより深い理解を得ることが可能になる。本研究では、ミヤマミズスマシ(Gyrinus sachalinensis)が示す、拡大する視覚刺激に対する群れの反応(Flash expansion)、および定常状態への回復の過程を対象とした。Flash expansionは、群れレベルの捕食者回避行動として理解されている。まず単独個体、および複数個体に対して視覚刺激を与えると、その反応は顕著に異なり、視覚刺激に対する群れの反応が個体間相互作用、特に同調と考えられる作用によって生じたものであることが示唆された。そこで次に、複数個体試験における個体状態の遷移ダイナミクスと、それらが個体間相互作用から受ける影響を、文化進化の分析手法を援用して解析することによって、群れの活性動態を規定する要因の抽出を試みた。本研究で使用したアプローチは、生物種を問わず群れ動態の解析に適用可能である。今後、社会性の程度の異なる群れ間の比較を通じて、群れの同調現象に通底する普遍性の解明に寄与することが期待される。