| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
シンポジウム S12-4 (Presentation in Symposium)
ササは長期にわたる栄養成長の後、偶発的に開花し枯死する。開花シグナルを捉えるためには、花芽分化より前から開花に至る時系列的な解析を行う必要があるが、偶発的に起きるササの開花の前兆を捉えることはきわめて困難であり、これまで開花前の試料は得られていなかった。しかし、予測困難なササ属の開花に関して、一斉開花の前触れとして栄養繁殖したジェネットの一部が先行して咲く「前咲き」が報告されている。森林総研北海道支所実験林内のチシマザサ-チマキザサ複合体においてもジェネットの一部が開花した後数年を経て残りのジェネットが開花する確率が高い。そこで、2017年に一部開花したジェネットの非開花ラメットについて継続的な観察とサンプリングを開始したところ、5年後の2022年にこれら非開花ラメットの一部が開花枯死、一部は非開花のまま残った。そこで、5年間のうちに栄養成長から生殖成長に転じたラメットと栄養成長を続けているラメットの試料について、時系列的な開花関連遺伝子発現量を比較した。分析はRNAを抽出し、qPCRでFT遺伝子の発現量を調べた。その結果、非開花ラメットではFT遺伝子の発現量に変化はなかったが、開花ラメットでは開花前年の9月から増加しはじめ、そのまま越冬して開花枯死に至った。これにより、開花前年の9月以前になんらかのトリガーが働いている可能性が示唆された。一方、2023年の北海道における広域同調開花について、北海道森林管理局の協力により国有林内の開花データを集計し、気象環境条件を解析したところ開花前年の春〜初夏の気温/降水との関連が示唆される結果が得られている。今回はRNAの分析を行ったが、DNA分析用試料も同時に採取し保存している。また、現在生存している非開花ラメットは引き続きサンプリングを継続している。これらの試料を含めて今後大面積同調開花のメカニズム解明につながることを期待する。