| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
シンポジウム S14-1 (Presentation in Symposium)
これまでに生物(生態系)が確認されている惑星は地球だけである。しかし、太陽系の惑星や衛星のほとんどは46億年前に同じ原始太陽系円盤の星間雲から生じ、同じ原材料起源と考えられている。なかでも火星と金星については岩石と金属など固体から成る地球型惑星に属し、太陽からの距離も比較的近い。現在は全く異なる表面環境となっているものの、金星は2億年前まではハビタブルな環境であった可能性や、火星は40億年前には海が存在した可能性が示されている。さらに、青い水の惑星ともいえる地球は、かなり特殊な条件が重なって生じてきた可能性も示されている。すなわち、多様な生物によって構成される地球の生態系は、惑星科学的には当たり前ではない。生物や生態系は、太陽放射や地球大気、重力環境、さらには惑星内部運動によって生じている様々な制約の下で進化・多様化しており、地球固有の性質を内包していることが予想される。その一方で、ノーベル賞受賞者George Waldによる「地球で生化学の勉強をしておけば、うしかい座α星での試験にも受かる」という発言をはじめとして、基本的な生化学的・物理学的な法則は宇宙全体で普遍的に通用すると考えらる。ここで、火星や月面環境と地球環境を比較することで、地球固有の環境によってもたらされている生物や生態系の制約が理解されやすくなる。重力、宇宙線(太陽宇宙線、銀河宇宙線)、放射(UV-Cの存在、日射スペクトルの違い)、大気(水が存在できる条件)、磁気、光周期(日周期、年周期)、レゴリス、過去の生物活動履歴などの影響評価は、地球上では対照実験が行いにくい環境条件と考えられるが、生態系を理解する上で重要な基盤となる知見である。さらに、惑星開発を実際に行うことを考えた場合、これらの情報の欠如は深刻な問題となる可能性があり、惑星と生態系という観点からの研究が増えていくことが期待される。