| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


シンポジウム S14-2  (Presentation in Symposium)

コケ宇宙実験(ISS与圧部、曝露部)から火星テラフォーミングを考える【O】
Plan for Mars terraforming from moss space experiments (ISS pressurized and exposed sections)【O】

*藤田知道(北海道大学理学部)
*Tomomichi FUJITA(Hokkaido Univ., Fac. Science)

 コケ植物は、極地や高山、火山荒原など、被子植物が生育しにくい環境でも成長できるパイオニア植物である。その特性から、コケ植物は月や火星での新たな陸上生態系構築に有用であり、火星テラフォーミングの加速に貢献し得る生き物であると考えている。
 宇宙環境では、大気や温度に加え、重力、紫外線、宇宙線などの物理環境が地球とは大きく異なる。これらの環境がコケ植物の生育にどのような影響を与えるのか、またテラフォーミングを加速するためにコケ植物にどのような改変が必要なのかを明らかにすることが我々の目的である。また、火星での人類に定着には、作物や樹木の生育も不可欠であり、それを支えるレゴリスの土壌化技術の開発が求められる。コケ植物は過去の地球環境において土壌形成に重要な役割を果たしてきたと考えられ、火星での土壌化にも応用できる可能性がある。
 そこで、我々は全ゲノム解読が最初に完了したモデルコケ植物ヒメツリガネゴケを用い、過重力応答、クリノスタット実験、紫外線照射など宇宙環境を模した条件下での生育実験を行い、その適応機構と遺伝的変化を解析している。さらに、国際宇宙ステーション(ISS)のきぼう与圧部(スペース・モスミッション)およびきぼう曝露部(タンポポミッション)での宇宙実験を実施し、コケ植物の成長、遺伝子発現変化、生存限界などを調査してきた。
 その結果、重力の大きさの変化に応答して、光合成や茎葉体の形態形成に影響を与えるコケ植物セン類に特有のAP2/ERF転写因子群を同定し、また胞子は宇宙低軌道上で9ヶ月間の曝露にも耐え、高い生存率を維持できることを明らかにした。
 本発表では、これまでの研究成果に加え、現在進行中の研究や今後の展望について議論し、火星テラフォーミングの加速を一例とした新たな生態系創出の試みについて、皆さんと意見を交わしたい。


日本生態学会