| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


シンポジウム S14-4  (Presentation in Symposium)

宇宙環境に対するコケ植物の光合成応答-過重力・ISS実験の結果から-【O】
Photosynthetic response of bryophytes to the space environment -Results of hypergravity and ISS experiments-【O】

*半場祐子(京都工芸繊維大学), 竹村香里(京都工芸繊維大学), 北島佐紀人(京都工芸繊維大学), ドゥティ フン(北海道大学), 高田海悠(北海道大学), Alisa VYACHESLAVOVA(Hokkaido Univ.), Marcel Pascal BEIER(Hokkaido Univ.), 横井真希(北海道大学), 篠澤章久(東京農業大学), 前田彩友子(京都工芸繊維大学), 安井祐太郎(京都工芸繊維大学), 尾﨑亮太(京都工芸繊維大学), 奥川颯馬(京都工芸繊維大学), 蒲池浩之(富山大学), 久米篤(九州大学), 唐原一郎(富山大学), 坂田洋一(東京農業大学), 小野田雄介(京都大学), 藤田知道(北海道大学)
*Yuko T HANBA(Kyoto Inst. Tech.), Kaori TAKEMURA(Kyoto Inst. Tech.), Sakihito KITAJIMA(Kyoto Inst. Tech.), Huong Thi DO(Hokkaido Univ.), Miyu TAKATA(Hokkaido Univ.), Alisa VYACHESLAVOVA(Hokkaido Univ.), Marcel Pascal BEIER(Hokkaido Univ.), Maki YOKOI(Hokkaido Univ.), Akihisa SHINOZAWA(Tokyo Univ. Agric.), Ayuko MAEDA(Kyoto Inst. Tech.), Yuichiro YASUI(Kyoto Inst. Tech.), Ryota OZAKI(Kyoto Inst. Tech.), Shoma OKUGAWA(Kyoto Inst. Tech.), Hiroyuki KAMACHI(Univ. Toyama), Atsushi KUME(Kyushu Univ.), Ichirou KARAHARA(Univ. Toyama), Yoichi SAKATA(Tokyo Univ. Agric.), Yusuke ONODA(Kyoto Univ.), Tomomichi FUJITA(Hokkaido Univ.)

宇宙環境に対するコケ植物の光合成応答-過重力・ISS実験の結果から-

スペースステーションや地球外惑星などの宇宙環境では、重力の大きさが地球とは異なっている。将来宇宙の環境で植物を栽培しようとした場合、植物の重力応答を知ることは必須となる。地球上の植物は通常、重力の大きさの変化を経験することはない。しかし約5億年前のカンブリア紀に陸上に出現し始めた初期の陸上植物は、陸上での1gの重力加速度に直接さらされることになり、重力変化への適応が必要となった。初期の陸上植物には現存するコケ植物の近縁種が含まれ、これらコケ植物は陸上に出現する際に、光合成を始めとする生理学的な変化や、解剖学的な変化を経験したと考えられる。しかし、重力と光合成・解剖学的構造との関係や、その遺伝的制御についてはほとんど知見がないのが現状である。我々は、コケ植物のモデル植物であるヒメツリガネゴケを材料として、まず過重力(3g、6gおよび10g)で栽培実験を行い、重力増加がヒメツリガネゴケの解剖学的構造や光合成・成長に与える影響を調査した。その結果、6gおよび10gの過重力では、葉緑体のサイズと茎葉体の数が同時に増加することで葉のCO2拡散が促進され、光合成速度が増加することが明らかになった。RNAseq解析を行ったところ、10gでは種特異的APETALA2/エチレン応答因子(AP2/ERF)転写因子の発現量が増加していた。さらに、微小重力(国際宇宙ステーション)での栽培実験を行ったところ、過重力とは逆の反応、すなわち葉緑体のサイズと光合成の減少が観察された。また、AP2/ERF転写因子の発現量は減少していた。これらの結果から、重力は光合成を制御する環境因子の一つであることが明らかになった。また、またその制御には、AP2/ERF転写因子による葉緑体のサイズ調節や成長調節が深く関与していることが示唆された。


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