| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
シンポジウム S14-5 (Presentation in Symposium)
地球外惑星のレゴリスから土を作る上で、まず、どの時点から土とするのかが問題となる。土壌を再定義するため、岩石粉末・火山灰を沖縄・奄美大島の表土に埋設し、初期土壌生成プロセスを40年間追跡した。この結果、時間とともに微生物多様性、酵素活性が高まり、同時に酸性化、有機物定着による仮比重の低下(団粒構造・孔隙の増加)が起きた。40年では粘土鉱物の生成には至らなかったが、粘土~砂、腐植という構成成分に限らず、自律的な自己再生機能(団粒・腐植生成)・物質循環機能を要件とするならば、十分に土壌とみなせる。これまで土壌圏は大気圏、生物圏、岩石圏との相互作用、鉱物と生物の相互作用として定義されてきたが、あくまで地球上での物質循環・物質生産を前提としており、大気のない地球外惑星にも適用できる土の再定義が必要になる。
実際に火星に土を作るためには、地球同様、植物・微生物と鉱物との相互作用が必要になる。初期土壌生成プロセスでは、地衣類あるいはコケ植物が有力な候補となる。すでに有害な宇宙線への耐性を確認されているヒメツリガネゴケをシャーレ上の火星模擬土(玄武岩粉末)、月模擬土(斜長岩粉末、玄武岩粉末)、地球真砂土で栽培し、コケ植物の生育によって発達する土壌環境および植物遺体を分解する最低限の微生物群集を抽出した。なお、実験は地球の重力環境・開放系で栽培し、外部からの微生物の移入によってどのような微生物が最低限必要となるのかを調査した。ヒメツリガネゴケは地球真砂土、月模擬土ではよく生育したが、火星模擬土では生育不良が見られた。最もヒメツリガネゴケの生育の良かった地球真砂土では仮根近傍とバルク土壌、成長段階と分解過程で主要な微生物群集組成に変化が見られた。実験は継続中で、この微生物群集によって腐植生成が可能なのかを調査するが、うまくいかなければ、より広範に土壌抽出液から候補を選抜する必要がある。