| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
シンポジウム S15-1 (Presentation in Symposium)
森林生態系において林冠は、生物多様性を支える中核的構造であり、生態系機能・サービスにおいて極めて重要な役割を果たしている。しかし、その空間構造とアクセスの困難さから、これまで林冠の多様性のパターン、メカニズム、および機能的役割の解明は大きな制約を受けてきた。近年、リモートセンシング技術の進歩や国際的な林冠クレーンネットワークの発展により、林冠生態学は急速な発展を遂げ、従来の記述的研究から操作実験を伴う研究へとシフトし、新たな発見が次々ともたらされている。一方で、林冠生態学という分野を広範な生態学の枠組みの中で位置付けるために、これまで森林に偏重してきた視点を超え、「林冠」の概念を再考する必要がある。Moffett(2013)は、林冠を「基質から突出する固着性生物群集の一部」と定義し、森林以外の生態系にも広く適用可能な概念として提唱した。この視点に立つと、草原、サンゴ礁、海藻藻場など、多様な生態系において森林の林冠と類似した階層構造が存在するといえる。これらの異なる生態系の比較を通じて、林冠のもつ生態学的な機能や固着性生物の群集構造について、より包括的に理解しうるであろう。特に、小規模な生態系では林冠へのアクセスが容易であり、集中的な調査や操作実験を行うことが可能となる点は大きな利点である。「林冠」の視点を拡張することで、林冠生態学を森林に限定されない普遍的な学問として再定義し、さまざまな生態系に共通する原理を探求することが求められる。本発表では、森林における林冠生態学における最新の進展を概観し、さらに、森林という環境を越えた枠組みで当該分野での展開を論じ、その学際的な意義について議論を深める。