| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


シンポジウム S15-3  (Presentation in Symposium)

林冠を構成するフタバガキ科サラノキ連植物の種多様化と移動分散プセス【O】
Molecular phylogenetic analyses reveal the diversification and dispersal processes of the tribe Shoreae (Dipterocarpaceae)【O】

*井坂友一, 中村彰宏, SCHNEIDERHarald(西双版納熱帯植物園)
*Yuichi ISAKA, Akihiro NAKAMURA, Harald SCHNEIDER(XTBG)

フタバガキ科(Dipterocarpaceae)は500種以上を含む東南アジア熱帯林の林冠部を構成する主要樹種群であり,その中でもサラノキ連(Shoreae)は10属約320種を擁している.フタバガキ科はアフリカで起源したのち,インド亜大陸を経て東南アジアへと分布を拡大し,熱帯気候の環境下で種多様化したと考えられている.この進化史は,大陸移動や気候変動が植物の分布や多様性に与える影響を解明する上で重要なモデルケースとなりうる.しかし,フタバガキ科の中で最も種多様なサラノキ連の系統進化や,移動分散ならびに種多様化のプロセスには未解明な部分が多く,特に,東南アジアの熱帯気候形成が種多様化に及ぼした影響については,依然として議論が続いている.本研究では,サラノキ連に属する約190種を用いて分子系統樹を構築し,それに基づき祖先地および気候適応特性についての祖先形質を推定した.さらに,分岐年代推定と多様化解析を統合し,サラノキ連の進化史を詳細に検討した.その結果,(1) サラノキ連は大きく2系統にわけられ,また各属が単系統であること,(2) サラノキ連の祖先種はアフリカ大陸で起源し,当初から熱帯気候への適応性をもっていたことが推定された.さらに,インド亜大陸が旧ユーラシア大陸と衝突を始めた約5000万年前以降,サラノキ連は東南アジアに分布を拡大し,(3) ボルネオ島を含むスンダ地域を中心に,熱帯雨林気候の発達とともに種多様化したことが示された.本研究は,東南アジア熱帯林の主要構成要素であるフタバガキ科サラノキ連の進化動態を明らかにし,気候変動や地史イベントが植物の種多様化に果たした役割を理解する上で貴重な知見を提供する.


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