| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


シンポジウム S15-4  (Presentation in Symposium)

半島マレーシア熱帯低地林における高木種の生理生態学的特性【O】
Ecophysiological characteristics of tall tree species in tropical lowland forests of Peninsular Malaysia【O】

*東若菜(神戸大学), 鎌倉真依(龍谷大学), 鶴田健二(琵琶湖環境科学研究セ), 小杉緑子(京都大学), LIONMarryanna(マレーシア森林研究所)
*Wakana AZUMA(Kobe Univ.), Mai KAMAKURA(Ryukoku Univ.), Kenji TSURUTA(LBERI), Yoshiko KOSUGI(Kyoto Univ.), Marryanna LION(FRIM)

東南アジア熱帯低地林では、樹高が50m以上にもなるフタバガキ科などの超高木が周囲の林冠から突き出た樹冠をもつ。半島マレーシアに位置するパソ森林保護区はフタバガキ科が優占する熱帯雨林で、年平均降水量が1,800mm程度と非常に少なく、2カ月以上の無降雨期間が観測されることもある。樹冠の梢端は光合成や蒸散が活発で、水分要求が最も高い場所であるため、梢端の葉へいかにして持続的に水を供給できるかが、樹木の成長や生命維持の要となる。乾燥した環境に順応して生育する熱帯高木種の生理生態特性を明らかにすることは、気候変動による東南アジアの熱帯雨林の変化の予測に役立つ可能性がある。そこで本研究では、超高木のDipterocarpus sublamellatus(DIPSU)および高木のPtychopyxis caput-medusae(PTYCA)を中心に、葉の水分生理特性、組織構造特性、幹の通水特性について調査した。一般的に植物の葉は日中の蒸散にともなう失水によって水ポテンシャルが低下し、PTYCAの葉ではその傾向が観測された。しかしDIPSUでは、枝の水ポテンシャルは一般的な日中低下を示したものの、葉の水ポテンシャルは常に高い値を示したことから、枝と葉のあいだで水分のインバランスが制御されると考えられた。また、両種の葉身と葉柄の含水比を測定したところ、DIPSUの葉柄が1日を通して含水比が高かった。葉の萎れに対する耐性は両種で同程度だった一方、DIPSUは葉の貯水性が卓越し、PTYCAは浸透調節能が卓越しており、両種の萎れに対する順化の方法は異なっていた。葉柄の光顕微鏡観察から、DIPSUの葉柄は多糖類を含む皮層が厚く、樹冠高所で葉柄が貯水タンクとなって葉の水不足の回避に寄与することが示唆された。幹内を流れる樹液流の計測や内樹皮の伸縮の日変化から、幹内の貯留水は午後から夕方にかけて蒸散に寄与し、夜間に補填されることが示唆された。各器官の水利用の調節機構を明らかにすることは、熱帯林の高木の生存戦略の解明につながる可能性がある。


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