| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


シンポジウム S16-1  (Presentation in Symposium)

揮発性物質を介した植物の近縁認識の可塑性【B】【O】
Plastisity of kin-recognition in plant mediated by VOCs.【B】【O】

*Kaori SHIOJIRI(Ryukoku Univ.), Shinnosuke KAGIYA(Ryukoku Univ.), Richard KARBAN(UCD)

多くの生物は、近隣の個体からの警告信号に反応して行動や形態を変化させることで、捕食のリスクを軽減する。動物においては、学習によって警告信号への反応の効果が高まることがあり、特に信頼性が高い血縁者からの情報や、関連性のある情報を提供する個体に対する反応が強化される。
植物においても、被害を受けた植物から放出される揮発性物質(匂い)を隣接する個体が受容することで、植食者に対する抵抗性が高る。また、近縁個体からの揮発性物質に対して強く反応することも報告されている。しかし、動物のように生育環境や状況によって、反応性がかわるのは明らかではない。そこで、私達は揮発性物質で近縁認識することが報告されているセージブラシとセイタカアワダチソウを用いて、匂いコミュニケーションに可塑性があるのかどうかを調べた。
 セージブラシは、匂いを発する個体と受容個体の化学型(ケモタイプ)が一致している場合に、より効果的である。そこで、異なるケモタイプの匂いに長期間さらされた場合に、自分とは異なる匂いに対する感受性が高まるかどうかを、2つのケモタイプを用いて調べた。その結果、植物のケモタイプに関わらず、匂いの発信源と、長期間の隣接個体のケモタイプが一致している場合に被害が減少した。これは、受容個体が長期間にわたって特定のシグナルにさらされることで、そのシグナルに対する誘導抵抗性が強化される可能性を示唆している。
セイタカアワダチソウにおいては、長期間、植食者圧の高いところで生育した個体と、植食者圧の低いところで生育した個体を用いて、血縁認識の強さを比べた。その結果、植食者圧の高いところで生育していた個体は自己体以外の匂いに対しても強い反応性を示した。これは、これまでの生育してきた経験からどのシグナルに対して反応するかを柔軟に変えている可能性を示唆している。


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