| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


シンポジウム S16-2  (Presentation in Symposium)

植物-葉圏微生物の相互作用:BVOC放出の種内変異と駆動要因を探る【B】【O】
Interactions between Plant and Phyllosphere Microbe : Exploring Intraspecific Variation and Drivers of BVOC Emission by Plant【B】【O】

*Satoyoshi ISHIZAKI(The University of Tokyo), Tetsuo KOHYAMA(The University of Tokyo), Yuki OTA(The University of Tokyo), Takuya SAITO(NIES), Yoshihisa SUYAMA(Tohoku Univ.), Yoshihiko TSUMURA(University of Tsukuba), Tsutomu HIURA(The University of Tokyo)

植物の葉の表面には多様な微生物が生息しており、宿主植物の生理・生態に様々な影響を与えている。既往研究により、これら葉圏微生物との相互作用が植物の生物起源揮発性有機化合物(BVOCs)放出メカニズムに関与することが示されてきた。植物が放出するBVOCsは微生物の感染に応じて変動し、微生物の生育の直接的な制御や植物防御応答の誘導に機能することが示唆されている。しかし、植物が放出するBVOCsの量と組成には大きな種間・種内変異が存在し、その駆動要因を野外で検証した例は限られている。
本研究では、野生集団由来の個体間でテルペン類の蓄積・放出量に顕著な種内変異を示すスギ(Cryptomeria japonica)を対象に、共通圃場でテルペン類放出速度と葉圏微生物群集組成の関係を調査した。非計量多次元尺度構成法とベクトルフィッティングにより、β-farneseneの基礎放出速度が高い個体ではTaphrinomycetes綱などの真菌分類群の相対量が多く、campheneの基礎放出速度が高い個体ではFirmicutes門などの細菌分類群の相対量が多い傾向が示された。これらの分類群には病原性や植物防御応答の誘導が報告されている種が含まれており、スギのテルペン類放出パターンへの影響が示唆される。また、温暖で降雪量の少ない気候下に分布する集団由来の個体ほど、モノテルペンの基礎放出速度が小さく、病原性を持つと推測される真菌の相対量が少ない傾向が認められた。気候条件の違いを考慮することが、BVOCs放出を介した植物と微生物の共進化メカニズムの解明に寄与すると考えられる。


日本生態学会