| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
シンポジウム S16-4 (Presentation in Symposium)
森林において外生菌根菌は地下に菌糸ネットワークを広げ、複数の樹木個体の根と共生関係を結ぶことにより、樹木個体間を菌糸でつないでいる。これにより菌根菌の菌糸ネットワークは樹木間の信号伝達(電気信号を含む)を仲介する可能性がある。本研究では、ワカフサタケ(Hebeloma)属の外生菌根菌2種の子実体における電位パターンと、人工的な撹乱イベントに対する反応を報告する。コナラが優占する森林内の5m×5mの区画で、2022年10月に尿素を施与したところ、アンモニア菌であるワカフサタケ属の子実体が大量に発生した。そのうち37個の子実体に電極を取り付けて電位を記録した。DNA分析の結果、これらの子実体はH. danicumおよびH. melleumの2種から構成されており、いくつかのクローンが含まれていた。電位の時系列データによる因果関係分析では、クローンや種に関係なく、子実体間の因果関係が示された。特定の子実体の根元に水を添加すると、子実体間の因果関係の強さが有意に増加したが、区画全体に水道水を添加すると、子実体間の因果関係の強さは大幅に減少した。一方で、特定の子実体の根元に尿を添加しても子実体間の因果関係の強さは変化しなかった。これらの結果は、外生菌根菌の子実体が電気信号を介して刺激に応じたシグナルを伝達する可能性があることを示唆している。全体に十分な水の供給があると、それぞれの子実体が独立に活性化し、因果関係が一時的に減少したのかもしれない。