| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
シンポジウム S17-1 (Presentation in Symposium)
植生のリモートセンシングは古くから行われているが、従来の手法は主に植物量を推定することしかできなかった。近年、植物の光合成速度やストレス状態を直接推定可能な手法としてクロロフィル蛍光と光化学反射指数(PRI)が注目されている。PRIは、570nmの反射率を対照として531nmの反射率変化を評価する分光指数である。PRIは植物葉内に含まれる色素の変化を反映する。非ストレス条件では、光化学系Ⅱにはビオラキサンチンという色素が結合しているが、光化学系Ⅱが強光などのストレスにさらされ、光エネルギーが過剰になると、ビオラキサンチンがゼアキサンチンに可逆的に変換される(キサントフィルサイクル)。ゼアキサンチンは、クロロフィルから過剰エネルギーを受け取って、熱として放散し、光化学系Ⅱを守る。ビオラキサンチンは530nm付近の光を吸収しないが、ゼアキサンチンは吸収するため、その変換をPRIによって検出できる。PRIは熱放散の指標である非光化学的消光(NPQ)や光化学系Ⅱの量子収率と高い相関を示し、光合成速度の推定に利用できる。また、光阻害、水ストレス、塩ストレスの検出にも用いることができる。PRIはMODISなどの人工衛星センサーでも観測可能であり、地球レベルの植物機能推定に用いることが期待される。しかし、PRIはキサントフィルサイクル以外の要素によっても変化するため、植生レベルのリモートセンシングでそのまま利用することはできない。本講演では、当研究室で行ってきたPRIの生理生態学的性質の研究や、実用化を目指したPRIの補正法についての研究を紹介したい