| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
シンポジウム S17-5 (Presentation in Symposium)
陸域生態系における水・物質循環の推定は、これまで地上観測データや衛星観測データの不足、さらには陸面の不均質性により、不確実性が高いとされてきた。しかし近年、地上観測ネットワークや衛星観測データの整備が進み、加えて計算機技術の発展により、大規模な観測データ(観測ビッグデータ)を活用した精度の高い推定が可能になりつつある。本発表では、地上観測ネットワークデータ・衛星観測データ・機械学習・簡易生態系モデル(診断型モデル)を組み合わせた陸域生態系における炭素フラックス推定に関し、これまでの研究成果をもとに現状と課題を紹介する。まず、地上観測と衛星観測を機械学習で統合し、炭素フラックスの広域推定を行う手法について、アジアおよびグローバル規模での進展を概観する。我々の研究では、特にアジア地域に焦点を当てつつ、グローバルにも展開し、入力データとして用いる衛星データセットの質が推定精度に大きく影響することを明らかにしてきた。さらに、衛星観測データを活用した陸域炭素循環モデルとして、我々はGCOM-C衛星搭載SGLIセンサデータを用いた炭素フラックスプロダクトを、BESSモデルを基盤に構築している。本モデルでは、GCOM-C SGLIの葉面積指数、地表面温度、アルベドなどを入力として、5kmメッシュのグローバルスケールで炭素フラックスを推定する。こうしたプロダクトは、準リアルタイムでの実装が容易であり、突発的な異常気象による植生への影響や火災状況の評価にも有用である。また、観測データに基づく推定結果は、プロセスベースの陸域炭素循環モデルとは独立したアプローチであるため、両者を組み合わせることで、プロセスベースモデルの改善にも寄与することが期待される。本研究を通じて、陸域生態系の炭素フラックス推定の精度向上を目指し、気候変動の影響評価や生態系管理への応用を展望する。