| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
自由集会 W01-1 (Workshop)
植物を食べる動物の多くは特定の植物を選択的に利用する。特に葉を食べる葉食性昆虫は、化学的/物理的防御を克服した植物種のみを利用することが知られる。一方、昆虫には花を食べる種も存在する。花は葉よりも水分や窒素を多く、またいくつかの植物では葉と比べて防御物質が多いことから、花食性昆虫は葉食性と同等か、より強い選択性を示す可能性が考えられる。一方、植物は特定の季節にしか開花しないため、あまりに狭い選択性は非適応的かもしれない。さらに、花の化学的/物理的な防御レベルは種によって多様であることから、花食性昆虫では防御レベルの低い花を幅広く利用する戦略が適応的かもしれない。このように花食性昆虫の選択性や利用戦略が葉食性とは異なる可能性がある一方で、これらの選択性やその戦略はほとんど調べられていない。
カザリショウジョウバエ(カザリ)は花食性であり、モデル生物であるキイロショウジョウバエと近縁で、ゲノム編集が利用可能であることから、花食性昆虫の新たな研究モデルとなる可能性を秘めている。カザリはアサガオ類とゲットウを繁殖に利用することが知られるが、詳しい選択性や利用戦略は調べられていない。そこで本研究では、まず野外調査により、カザリが訪花する花とその繁殖を調べた。その結果、彼らは複数の特定の花種に選択的に訪花し、訪花した中でもさらに特定の種で繁殖していた。室内実験により、カザリは繁殖する花種に選択的に産卵し、これらの花は幼虫の発生に適していることが示された。一方、繁殖しないが訪花する花種では、カザリの成虫が花蜜や花粉を摂食していることがわかった。飢餓状態において、この花種は他の花種よりもより良く生存率を回復させたことから、この花種は、幼虫の餌資源としては不適であるが、成虫の生存には有用であると考えられる。これらの結果から、カザリは繁殖と採餌という異なる目的に応じて適切な花を利用する高度な花利用戦略を持つ可能性が示された。