| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


自由集会 W01-4  (Workshop)

シカが作る水場で繁殖する両生類【O】
Amphibians breeding in deer-created water habitats【O】

*松浦なる(北海道大学環境科学院), 岸田治(北大・北方圏FSC)
*Naru MATSUURA(Hokkaido Univ., Env. Sci.), Osamu KISHIDA(Hokkiado Univ., FSC)

近年、シカの個体数増加とその影響が懸念されている。シカの増加が生態系に与える影響は、採食行動による植生への被害などが報告されているが、ほかにも踏みつけやヌタ打ち(泥浴び)といった行動を通して土壌を改変することで、他種に影響を与えうる。しかし、シカが生息地を提供・改変する生態系エンジニアとして、他種にどのような影響を与えているのかはほとんど調べられてこなかった。シカが踏みつけ、ヌタ打ちした土壌は、周囲と比べて窪み、水域の近くでは水が溜まることで、両生類などの水生生物の生息地となる。では、実際にシカが作った水場はどの程度両生類に利用されているのだろうか?また、それらは両生類の生活に適した環境なのか、それとも生活に不適な「生態的トラップ」となっているのか?
本発表では、シカの踏みつけやヌタ打ちによってできた水場において、両生類の繁殖を調査した我々の研究を2つ紹介し、シカが、生息地を提供することで両生類にどのような影響を与えているのかを検討する。まず一つ目の研究では、河川の氾濫原に、シカがヌタ打ちによって作成した「ヌタ場」における、エゾアカガエルとエゾサンショウウオの繁殖を調査した。この研究では、両生類2種の水生生活期(卵から上陸まで)の生存や成長を調査し、ヌタ場と自然の池(2種の通常の繁殖場所)とで比較を行った。その結果、ヌタ場が生息地として適しているかどうかは、利用する両生類種によって異なることが明らかとなった。次に、二つ目の研究では、湿原に、シカが踏圧により作成した「シカ道」における、キタサンショウウオの繁殖を調査した。この研究では、手始めに、実際にどのくらいの個体がシカ道に産卵するのかを調査した。結果、調査エリアではなんと97.5%がシカ道に産卵していた。発表では、今後の研究の展望を示すとともに、シカが繁殖場所を提供することで両生類に与える影響について議論する。


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