| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
自由集会 W03-3 (Workshop)
生態系と地域社会の結びつきをとらえたとき、流域視点を中心に据えた異分野連携は、企業価値向上と生態系保全を同時に実現する可能性を持つ。近年、世界的にネイチャーポジティブをビジネスの核に据える企業が増加しており、TNFD・CDPといった情報開示枠組みの普及に伴い、自然資本の客観的評価がより重要となっている。
流域は水質浄化や漁業資源維持など多くの恩恵をもたらすが、受益と負担の不均衡や将来リスクの不確実性があるため、適切なモニタリングと合意形成が最重要課題となる。上流の森林管理が下流の水産資源に影響を与えることは、各地の漁業従事者も感覚として認識されているところでもある。流域全体での生態系保全と地域経済の発展には協力体制の構築が大きな課題であるといえる。
また、投資効果を具体的に示すには、景観・流域生態学に基づく評価モデルの構築が不可欠であり、自然を活用した解決策に対する投資を促進するには、計測・検証技術の向上が鍵となる。リモートセンシングやeDNAなどの先端技術の実装と並行し、生態系保全による価値創出をたとえ不完全でも可視化していくことが、投資における信頼性向上と受益者からの資金確保の流れにつながることにもなる。
持続可能な流域管理には、農林漁業・企業・行政が一体となった意思決定プロセスと、地域関係者の参加が重要である。生態学の役割として、自然資本評価、投資効果の科学的検証、合意形成手法、計測技術の革新など多面的な貢献が期待される。
今後の課題として、①流域特性を反映した生態系サービス評価指標の精緻化、②長期的な生態系変化予測モデルの構築、③多様な利害関係者間の合意形成メカニズムの解明などが挙げられる。これらの課題に対する具体的アプローチとして、ベンチャー企業の事業開発の視点から、金融・IT技術と生態系を組み合わせた事例を紹介し、生態学と経済的価値創出を融合した流域再生モデルについて話題提供をおこなう。