| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
自由集会 W04-1 (Workshop)
閉鎖的環境に生息する生物にとって、排泄物による汚染は深刻な問題である。多くのカエル幼生は新鮮な水が供給される大きな水場に生息し、排泄されたアンモニアは希釈されるため悪影響は少ない。しかし、一部の種は流れのない小さな水系に生息し、排泄物が蓄積しやすい。本研究では、ファイトテルマータ(樹上の水たまり)に生息するアイフィンガーガエル(Kurixalus eiffingeri)幼生が変態まで排泄を行わないことを発見し、腸内に糞便を保持することでアンモニア中毒を回避していると仮説を立てた。飼育水のアンモニア濃度測定により、幼生の排出量が少ないことを確認し、塩化アンモニウム水溶液への曝露実験では他種より高いアンモニア耐性を本種は示した。これらの結果は、本種がアンモニアの排泄抑制と耐性向上の両面で閉鎖環境に適応していることを示唆する。本研究は、両生類幼生が変態まで排泄しないことを示した初の研究であり、両生類の新たな環境適応の視点を提供する。
さらに、本種の腸内細菌との相互作用に着目した。生物の形質や行動に対する共生細菌叢の重要性は広く知られており、特定の餌資源を利用する生物では腸内細菌叢の特殊化が見られる。本種は栄養卵のみを摂取することから、細菌叢の特殊化が予想される。16S rRNAアンプリコンシーケンス解析の結果、幼生の腸内細菌叢は他種より単純であり、餌資源の特殊化と対応していた。また、幼生と成体で細菌叢が類似しており、栄養卵を介した親から子への腸内細菌垂直伝播の可能性が示唆された。さらに、Bacteroides属とAkkermansia属が本種の腸内細菌叢を特徴づける細菌として特定され、食性の特殊化を反映していると考えられる。