| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
自由集会 W04-2 (Workshop)
アリやシロアリなどの昆虫は真社会性昆虫と呼ばれ、高度な分業体制によって集団生活を営んでいる。この分業の基盤となる個体間の相互作用は、同時に病気の伝播を促進する可能性があることが知られている。 特に、高密度かつ閉鎖的な巣内の生活空間は、常に外部からの病原体の侵入の脅威に晒されており、繁殖を担う女王への感染はコロニーの存続に大きな影響を与える。したがって、巣内での病気の蔓延を防ぐ仕組みを明らかにすることは、社会性昆虫のコロニー維持を理解する上で重要である。本研究では、病原体の感染源の一つとして知られている糞に着目し、アリの一種、トゲオオハリアリを用いてその取り扱い方法を多角的に議論することを目的とする。まず、複数の巣部屋を持つ実験巣を用意し、巣外で細菌に感染したワーカーが糞を介して細菌を巣内に持ち込むかどうかを調べた。その結果、感染したワーカーは糞を介して巣内に細菌を運ぶことが明らかになったが、その大部分は糞が蓄積されて形成されるトイレで見つかった。さらに、女王の滞在場所を調べたところ、ほとんどの時間をトイレ以外の部屋で過ごしていることがわかった。 これらの結果から、トゲオオハリアリのトイレ形成には、巣外から持ち込まれる病原性細菌に対する女王の感染リスクを制限する機能があることが示唆された。次に、個々のワーカーのトイレ利用状況を調べたところ、糞をした後でも長時間トイレに滞在する個体がいることが明らかになった。 本種のワーカーは腸内に特異的な細菌を保持していることが知られており、これらの共生細菌は糞を介して他の個体に伝播されると考えられている。 したがって、トイレは単なる病原体の隔離機能を超え、集団免疫の一部として機能するだけでなく、共生細菌の伝播効率を高める役割を果たしている可能性がある。最後に、糞の匂いの影響に着目したシミュレーションを行い、トイレ形成のメカニズムについて議論する。