| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
自由集会 W04-3 (Workshop)
排泄物管理は、巣を作り集団生活を営む動物にとって重要な適応である。なぜなら、排泄物の蓄積は巣の中の生活空間を狭め、不衛生な環境にして巣仲間同士の病気感染を促進するからである。排泄物の管理行動は、真社会性といった高度な社会をもつ動物から、ただ共同生活を営むといった単純な社会を持つ動物まで、さまざまな動物でみられる。この行動は体長1mm未満の植食性節足動物であるハダニ類でも見つかっており、ハダニの社会性の進化と密接な関係があると考えられている。中でも、亜社会性をもつスゴモリハダニ属では明らかな排泄物の管理行動がみられている。ハダニは糸を吐くことができるが、本属のハダニはその糸を使って寄主植物の葉裏にトンネル状の巣を作り、巣の中で集団で生活する。巣の出入り口付近といった特定の場所でのみ排泄することにより、巣内環境を衛生に保っている。重要な行動であるが、その行動の進化を理解するためには、行動の詳細を知り、近縁種間で比較するとともに、その行動が繁殖成功や生存率に与える影響を定量的に評価することが必要である。そこで、本属4種を対象に排泄場所と行動の詳細を調べて比較するとともに、高度な排泄物管理がみられた種を対象に、排泄場所やその数の操作が繁殖と生存に与える影響を調べた。その結果、種間で排泄場所やその数、排泄場所認識方法に違いがみられ、巣を連続的に増築して大集団を形成する種では場所認識に糞から揮発する化学物質を利用するといった、より高度な排泄物管理がみられることが明らかになった。また、その化学物質は寄主植物由来であり、その物質への反応には寄主転換の歴史の影響が示唆された。さらに、排泄場所やその数の操作が卵の生存率を低下させる一方で、その悪影響は頻繁な巣の増築により回避されていることが明らかになった。これら結果をもとに、ハダニの社会性の進化におけるスカトロジーの重要性について考察する。