| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
自由集会 W05-1 (Workshop)
地球上には無数の島が存在し、その形状、大きさ、隔離の程度、生態系は多種多様である。このため、島は進化仮説の検証研究において、十分な繰り返しを得ることができる「自然の実験場」として長く研究されてきた。近年、分子系統地理学的解析の進展により、島嶼の生物が大陸からの移入に由来するだけでなく、島で多様化(進化)した生物が再び大陸に戻る「再移入」の事例が確認されている(Bellemain and Ricklefs 2008)。この発見は、生物の分布拡大や進化が単に「大陸(本土)から島へ」の一方向ではなく、「島から大陸(本土)へ」の移動も重要であることを示し、新たな視点をもたらした。島から本土への再移入は、海を越えた分散、海水面の上下動による陸橋の形成・消失、そして島そのものの本土への衝突・付加の三つの主要なメカニズムによって起こる。特に、古伊豆島の衝突やインド亜大陸の衝突といった事例は、プレートテクトニクスの影響を受ける特異的なものである。こうした過程を経て本土に戻った島起源の生物は、本土の環境においてさまざまな進化的運命をたどる可能性がある。例えば、別種として共存する場合、その過程で本土環境に適応し形質が変化することがあるが、その変化が表現型可塑性によるものなのか、それとも急速な分子進化によるものなのかは重要な研究課題となる。また、祖先集団と再融合するケースや、狭い交雑帯を形成しながら異所性を維持するケースも考えられる。これらのシナリオは、形態学的・遺伝学的解析を通じて包括的に検証できる。本研究では、その具体例として、伊豆半島のオカダトカゲ集団が伊豆諸島で固有化した後、古伊豆島(伊豆半島)の本州衝突によって再び本土に移入した事例を紹介する。さらに、日本列島と大陸間の移入・再移入の歴史が日本の生物相の形成に与えた影響、およびその後の生物の再移入が大陸生態系に及ぼす影響について、様々な分類群の事例をもとに考察する。