| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


自由集会 W05-3  (Workshop)

遺伝子解析から紐解く水生昆虫昆虫・純淡水魚類の逆分散 back dispersal 現象【O】
Back dispersal phenomenon of some aquatic insects and a freshwater fish revealed by genetic analyses【O】

*東城幸治(信州大学)
*Koji TOJO(Shinshu Univ.)

日本列島は世界的にも生物多様性の高いエリアとして知られ、その生物相が「どのように形成されたのか?」は、進化生態学的にとても興味深い課題である。この「問い」は、しばしば「日本列島の生き物たちが、いつ、どこから渡来したのか?」とも置き換えられてきた。日本列島は、海洋の火山活動に由来する極一部の「海洋島」を除き、大部分は大陸からの離裂や大陸棚に形成された「大陸島」に由来する。大陸からの離裂とともに移動した生物や、海水面が低下した氷期に、陸橋を介した渡来が想定されてきた。系統進化や生物地理研究では、複雑かつユニークな列島形成史と関連づけながら議論されてきた。こうした日本列島の生物相構築プロセスの究明を目指した研究には興味深い事例が多い。なかでも陸水河川系に生息域が限定されるような淡水生物のうち、生涯の全て(あるいはほとんど)を河道内で過ごすような生物種群は、海洋や陸域を経由して別水系へと移動分散することができないことから、水系に依存し、水系を単位とする遺伝的分化が検出されやすく、生物地理研究における興味深い知見をもたらしてきた。これまで、河川のワンドやたまりに生息する水生昆虫類を対象とした研究において、特に、水生半翅類では複数種において、大陸から日本列島と向かうような方向性ばかりでなく、逆に日本列島から大陸へと向かうような方向の分散を示唆するような結果が得られてきた。大陸と日本列島が陸橋で繋がるのならば、「渡来」だけでなく、「渡往」も生じ得ることは当然のことではあるが、こうした渡往の事例は最近までほとんど報告されずにきた。しかし、地域集団の遺伝構造から移動分散の方向性や強度の推定精度も高まる近年の研究では、従来は想定外であった「渡往」も知られつつある。本発表では、水生昆虫での日本列島から朝鮮半島への分散、北海道からサハリンへの淡水魚類の分散事例について詳しく紹介したい。


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