| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
自由集会 W05-4 (Workshop)
日本の鳥学者は日本列島の鳥の由来に注目してきた。朝鮮半島を経由して入って来たのか、北方から北海道を経由してか、あるいは南西諸島経由か。その推定では亜種分布が有用で、本州の繁殖陸鳥は多くがブラキストン線を超えてカムチャツカまたはサハリン-北海道と一致し、北方由来が示唆された。しかし完新世が温暖期であることを考慮すると、多くの種は温暖化に伴って本州から北海道以北に分布を広げたという解釈も成り立つ。分散の方向性を調べるには、分子系統解析と遺伝的多様性の解析が必要だった。
カケスはユーラシアに広く分布する広域分布種の鳥で、最近縁種が奄美諸島のルリカケスである。ミトコンドリアDNAの系統は、本州以南の日本の亜種カケスはユーラシア大陸のカケスの諸亜種全体の姉妹群にあたり、カケスがルリカケスから種分化して大陸に広がったことが示唆された。そこで、他の鳥種でも日本から大陸への再移入がないか、DNAバーコードデータを分析して調べた。
カケスと同様に最近縁種が日本列島の固有種で、かつ種の系統樹の根元に日本の集団がくる系統樹を示す姉妹種群は、沖縄島のノグチゲラとユーラシア広域分布種オオアカゲラ、奄美諸島のアマミヤマシギとユーラシア広域分布種ヤマシギ、奄美大島のオオトラツグミと北東アジア分布種トラツグミ、伊豆諸島のイイジマムシクイと極東分布種センダイムシクイの計5種群いることがわかった。また、遺伝的多様性において日本の集団が大陸の集団よりも高いことで、日本起源が示唆される種は34種になり、合計39種の日本起源が示唆された。
鳥類においてはユーラシア大陸の東端に位置する日本列島が、小集団が周縁環境で地理的隔離を受けて種分化する周縁種分化の地として、大陸の鳥の種多様性の供給地になってきたと推測される。今後、核DNAを調べると共に、日本列島での鳥の種分化が起きた年代が集中しているのか分散しているのか調べていきたい。