| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
自由集会 W07-2 (Workshop)
植物は土壌の窒素やリンなどの資源量に応答して個体に占める根の割合を変え、効率的に資源を利用している。水もこうした資源の一つであり、根、茎、葉はそれぞれで通水抵抗が異なるため、個体内の資源分配は植物の水利用にも大きく影響することが予想される。根、茎、葉の通水抵抗の割合は約2:1:1で、根が個体の水輸送の最大の律速要因になっている。しかし、多くの植物がこの通水抵抗の割合をとる生態学的な意義はわかっていない。私は、草本のイタドリと落葉樹のケヤキを使って、根、茎、葉における、乾重と通水抵抗の分布を測定した。その結果、両種ともに根のバイオマス(乾重)の割合は20%前後で通水抵抗の割合は個体全体の60-80%を占めた。一方で、バイオマスあたりの通水抵抗を比べると根はシュートと同程度の値を示した。これらの結果から、根の通水抵抗の割合が大きくなるのは、根が水を通さないからではなく根のバイオマスが小さいことによることが示唆された。この根の通水抵抗が高い割合を占めることが植物の成長に与える影響を考察するために、根、茎、葉へ一定量のバイオマスを分配し、その時の個体の通水抵抗と全葉面積と葉面積当たりの光合成速度の積で得られる個体の光合成速度を求める数理モデルを作製した。イタドリとケヤキの値を使って計算すると、根へのバイオマスの分配が少なく根の通水抵抗の割合が高くても十分な気孔コンダクタンスを確保できる水が輸送され、こうした状態で個体の光合成速度が最大になった。このときの予測値は、イタドリとケヤキの実測値とよく一致しただけでなく、VPDなどの環境条件を変えても個体で根の通水抵抗が最も高い割合を占めるときに個体の光合成速度が最大になることが予測された。以上の結果から、根の通水抵抗の割合が大きいのは、根のバイオマスへの投資が小さいことが原因であり、この状態が成長にポジティブな効果をもたらしていることが示唆された。