| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


自由集会 W07-3  (Workshop)

森林生態系における地上部・地下部生産動態の相互関係【O】
Interactions between above- and belowground production dynamics in forest ecosystems【O】

*仲畑了(東京大学, モートン樹木園)
*Nakahata RYO(Tokyo Univ., The Morton Arboretum)

森林生態系の炭素動態メカニズムを解明するためには、季節変動や経年変動を含む樹木生産の時系列動態の理解が重要である。森林地上部の葉や果実、木部がおおよそ春から夏にかけて成長することは目視からも明らかであるが、地下部の細根や根滲出物、菌根菌糸の生産フェノロジーは、同じく樹木のNPPの一部であるにも関わらず、それらの全容が未解明なままである。ここ数十年の研究で、細根生産のみで森林NPPの10~30%を占めるとする推定がいくつも報告されており、またそのフェノロジーは地上部に比べてかなり多様であることがわかってきた(e.g., McCormack et al. 2014, 2015)。そして、細根動態研究においては、単なる生産パターンの記述にとどまらず、それらの複雑性をもたらす駆動要因の解明に着手する段階にきている。これまでの研究で、細根フェノロジーの多様性は地上部の栄養成長と繁殖成長などの生理動態や、温度や水分条件などの環境要因と密接に関係している可能性を実証データにより示唆してきた(e.g., Nakahata et al. 2021; Nakahata 2022)。マスティングや気候変動などの経年イベントや、展葉や夏季の乾燥などの季節イベントにともなう森林地上部・地下部の生産動態の詳細な関連性が明らかになれば、これまで単純な地上部・地下部間の同調関係を仮定してきた、陸域生態系物質循環モデルの精度向上に大きく寄与する。現在、生産フェノロジーの関係性への理解を一般化するために、温帯林樹種を中心とする様々な森林タイプで地上部・地下部の長期的同時観測を進めている。その中で、成長期間内で資源利用のトレードオフを示唆するように葉や幹の成長のピークに続いて細根生産がピークに達し、その生産のタイミングに影響する要因も組織間で異なる傾向が明らかになってきた。本発表では、地上部・地下部の生産動態研究における現状と課題、今後の展望について解説する。


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