| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
自由集会 W08-3 (Workshop)
森林へのバイオチャー施用による炭素隔離の可能性について注目されているが、研究例はまだ限られている。森林は、農耕地とは異なり、それ自体が重要な炭素吸収源であることから、バイオチャー施用が森林生態系の炭素循環にどのような影響を与えるかについての評価が重要である。本発表では、コナラ二次林を対象とした結果を紹介する。初期の3年間では、この森林ではNEPとして4.2 Mg C ha-1 yr-1の炭素吸収能力を持っていた。一方で、バイオチャー施用によって林冠木のコナラの成長は有意に大きくなり、NPPは約 8%増加したが、従属栄養生物呼吸量(HR) は約35%の大きな増加が認められた。このため NEP ( = NPP – HR ) は、バイオチャー施用によって3.2 Mg C ha-1 yr-1まで低下した。一方で、長期的な変動を見ると、施用後4年目以降は対照区と施用区でのHRの有意な差異は認められなくなった。しかし、対照区に比べて施用区のNPPは4年目以降も大きくなる傾向が認められた。特に、施用から8年後でもコナラの堅果が多く生産され、年によっては有意な増加が認められた。これらの結果、年々変動は見られるものの、4年目以降はほぼ全ての年で対照区に比べて施用区のNEPが高くなった。このようにバイオチャーの施用は、短期的にはHRの増加によって森林生態系のNEPを低下させるものの、長期的にみると、HRへの影響がなくなった後もNPPを増加させる傾向は長く維持されることが明らかとなった。森林生態系へのバイオチャー施用の影響には中長期的な評価が不可欠であり、土壌中への炭の長期的な隔離だけでなく、樹木の成長や種子生産の増加を通して、生態系の炭素隔離機能そのものも大きくする効果が考えられる。