| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
自由集会 W11-1 (Workshop)
耕作放棄が生物多様性に与える影響には地域差が知られている。例えば、地中海地域や本州以南を対象としたメタ解析では一貫して負の影響が報告されているが、シベリア西部や北海道で実施された研究は耕作放棄による生物多様性への正の影響を報告している。耕作放棄地の面積は世界的に増加し続けると予測されているが、研究事例数そのものにも地域差があり、耕作放棄の影響を世界的に予測できるような枠組みが求められている。また広域レベルでの解析事例の不在が、耕作放棄を生物多様性世界目標に組み込むことを阻害しているとも指摘されている。そこで本研究では、日本各地の199地点の耕作放棄地や農地における鳥類調査、および114プロットの植生調査から、どの時空間的な要因が放棄後に成立する群集に影響するかについて明らかにした。
鳥類の調査結果からは、群集にどの機能群が優占するかに依存して、耕作放棄の影響に地域差が生じすることが示唆された。森林・草原・湿原性種のような相対的に安定した環境を選好する種が群集に優占する場合(繁殖期の北日本)、耕作放棄地における鳥類種数は水田における鳥類種数を上回った。一方で、水辺性・裸地性種のような相対的に攪乱に依存した環境を先行する種が群集に優占する場合(繁殖期の南日本)、耕作放棄地における鳥類種数は水田における鳥類種数を下回りった。植物を対象とした調査では、北日本の耕作放棄地では、湿性木本や湿性多年生草本の種数が多いものの、南日本ではつる性植物や湿性一年生草本の種数が多い傾向が見出された。特に北海道では農耕の歴史が浅く、梅雨や台風による攪乱も少ない。一方で、南日本では農耕の歴史は数千年に及び、また攪乱を受ける機会も多い。このような気候・農耕の歴史の地域差が、現在の生物の応答に影響している可能性がある。