| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


自由集会 W11-2  (Workshop)

流域の異なる水田水域における水生動物群集の生息状況からみえてきたもの【O】
Similarities and differences in aquatic animal communities in rice paddy waterbodies of different watersheds【O】

*田和康太(国環研・気候変動)
*Kota TAWA(NIES CCCA)

日本では,主に治水技術が発達した江戸時代以降,大河川の氾濫原に広大な水田(ここでは主に水稲田を指す)が形成されてきた.これらの水田開発は時間的に緩やかに進められたことや,定期的に湛水される水田およびその周辺水域によって形成される水田水域が本来の氾濫原における後背湿地と類似した湿地環境を有していたこと,河川と水田の水域連結性が保たれていたことなどから,氾濫原に生息していた生物にとって水田は代替湿地として機能したと考えられている.原生的な大河川の氾濫原環境がほとんど残されていない現代の日本において,水田水域の生物多様性の保全は氾濫原の生物多様性の保全そのものを意味しており,その効果的な保全策の実行が急務である.本研究では円山川,木曽川,利根川といった3つの異なる大河川流域の水田水域と河道内氾濫原(近代的な連続堤防によって堤外地の狭小なエリアに残された氾濫原)における作付期・非作付期を通した水生動物の比較調査をもとに,当該地域の水田における水生動物群集の生息状況に関する共通点や相違点を整理した.
水田水域における共通点としては,1. どの流域でも水田水域と河道内氾濫原とでは異なる水生動物群集が形成されていること, 2. 河道内氾濫原よりも顕著に水生コウチュウ目とカエル類の分類群数および個体が多いこと,3. 多種の水生コウチュウ目やニホンアマガエル・ヌマガエルは水田で主に繁殖すること,4. 魚類の分類群数は少ないが,ドジョウ属の個体数は多いこと,4. 甲殻類の分類群数が少ないことが挙げられた.相違点としては,1. アカガエル類の産卵の有無,2. 河道内氾濫原と比較した際のトンボ目幼虫の分類群数の大小が挙げられた.相違点がもたらされた一つの要因として,各流域における水田の乾きにくさの違いが考えられた.乾田化の進行する地域では特に河道内氾濫原も含めて補完的に保全策を検討することが望ましいだろう.


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