| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


自由集会 W11-3  (Workshop)

田植え時期の違いに対する生物の応答:水生動物、カエル、サギを対象に【O】
Responses of organisms to differences in transplanting timing: focusing on aquatic animals, frogs, and herons【O】

*安野翔(埼玉県環科国セ)
*Natsuru YASUNO(CESS)

 水田は米作りのための農地であると同時に、湛水後にはカエル類や水生昆虫等の繁殖場や成育場、水鳥等の採餌場として機能する。田植え時期は農法や栽培水稲品種等の条件によって大きく異なるが、湛水期間が生物の生活史と大きくずれてしまうと、当該生物種が水田を利用できなくなる可能性がある。埼玉県の場合、4月下旬には田植えを終える水田がある一方で、6月下旬頃に田植えをする米麦二毛作水田も存在する。演者はこれまで埼玉県内において、田植え時期の違いが水生動物やカエル類、サギ類に及ぼす影響を調査してきた。水田ごとの水生動物調査の結果、田植え時期によって群集構造が異なり、農法ごとに特徴的に出現する種が存在することを明らかにした。早植え水田で特徴的に出現した種には、トウキョウダルマガエル幼生、土壌中で休眠するドジョウや休眠卵を形成するアカネ属幼虫等が含まれていた。一方、田植えの遅い二毛作水田ではユスリカ幼虫が多数生息し、さらにその捕食者と思われる肉食昆虫の種数、個体数も多い傾向にあった。
 カエル類の生息適地とサギ類の季節ごとの採餌適地推定のため、衛星画像を用いた種分布モデルを構築した。カエル類のうち、トウキョウダルマガエルは田植えの遅い米麦二毛作地帯で生息適地が少ない傾向にあり、田植え時期が本種の分布に影響している可能性が示唆された。サギ類については、5~7月は田植えの早い水田から遅い水田へと季節ごとに採餌場を変えていく様子が確認できたが、イネが伸びきった8月では広範囲に分散する傾向が認められた。
 以上から、田植え時期を調整することで保全対象の水生動物やカエル類を保全できる可能性が示唆された。また、田植え時期の異なる水田が混在することで、地域レベルでの水生動物の種多様性が向上するとともに、サギ類が長期間にわたって水田内で採餌できるようになる可能性が示唆された。


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