| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
自由集会 W12-1 (Workshop)
表現型は、生物と環境の境界にあり、生物の適応に直接的な役割を果たしている。生態学では早くからこの性質に注目し、形質に基づくアプローチによって、生物の環境適応や地理分布の特徴が明らかにされてきた。一方、小進化の研究では遺伝構造に焦点が向けられてきた。すなわち、進化の歴史が親から子への情報伝達媒体に刻まれていることに着目することで、集団・量的遺伝学や分子系統学が発展してきた。しかし、進化研究には依然として未解明の領域がある。それが大進化である。特に、科レベル以上の進化については、ほとんど解明されていない。G-matrix を用いた種間進化の解析には根本的な限界があり、生態進化の視点では大分類群間の比較が困難である。
本講演では、大進化の理解に向けた新たな視点として、表現型システム生物学を提唱する。ここでは、表現型を発生過程の最終産物としてではなく、多要素が相互作用するシステムとして捉える。まず、表現型の「要素」を定義し、進化過程でどのように維持・変化してきたのかを考察する。次に、多要素システムとしての表現型の進化過程を解明するために、マクロ進化プロセスおよびマクロ進化パスウェイの概念を紹介し、それを解析する上で系統比較法が強力なツールとなることを示す。見えてきたのは、少なくとも形態形質では、小進化では遺伝構造が保存されやすいのに対し、大進化では表現型にこそ情報の保存性が見出されやすいという逆転現象である。この理解のために、遺伝子型(G)-表現型(P)の構造的進化を長時間発展系として内包したGPループ(GPloop)という概念を提案する。GPloopの動態では、群集生態的な制約と発生的な拘束の相互作用が重要な役割を果たす。最後に、新年度からの物理×情報×進化を横断した新プロジェクトを紹介する。
本講演を通じて、遺伝子中心主義から一歩踏み出し、表現型をシステムとして捉えることの重要性を提案し、進化学と生態学の統合的理解が進むことを期待する。