| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


自由集会 W13-1  (Workshop)

動物管理と被害管理のギャップーエゾシカ管理の事例から【O】
The Gap in Management for Agricultural Damage and Animal Population - A Case Study of Sika Deer Management in Hokkaido【O】

*上野真由美(北海道大学)
*Mayumi UENO(Hokkaido University)

本発表では、エゾシカ管理を事例に1990年代から始まった野生動物政策を振り返り、野生動物に起因する社会問題の深刻化に対応するため、部局横断的な政策の必要性を論じる。エゾシカ管理は農林業被害や生活被害、生態系への影響に対応するため実施され、東部地域ではメスジカ捕獲の規制緩和と財政支援により個体数削減に一時的に成功したが目標水準には至らず、他地域では削減効果がなく、広域的な個体数管理が困難になっている。鳥獣保護法の目的は生物多様性や環境保全、社会的被害の軽減であるにも関わらず、その政策は動物を対象にしたものであり、保護政策時代の設計から変わらない。農業者にアンケートや聞き取り調査を行うと、被害軽減を実感する者は少なく、農業者による被害対策は被害が深刻化した時点で実施される傾向にある。鳥獣害は生産を左右する一因子に過ぎず、対策そのものが労務負担になっており、被害は投資対効果の問題として捉えられている。このことを考慮しなければ、被害対策の評価は難しい。北海道の野生動物管理は、その担当が環境生活部局に移管したことで、産業部局から離れてしまった。しかし、被害防止対策に対する財政措置は産業部局の管轄であり、計画と実行が行政系列によって分断されている。市町村は鳥獣被害防止計画を策定しているが、個別対応であり、検証・連携を促す仕組みが欠如している。したがって市町村の上位にある都道府県による特定鳥獣管理計画は、被害防止計画の統括・指導を担うコーディネート役として適任だと考える。市町村ベースの被害防止計画と、都道府県ベースの管理計画がつながることで、当該市町村だけでなく隣接市町村による効果的な被害・影響対策も可能になる。鳥獣管理計画は動物中心的なフレームワークから脱却し、被害を中心としたフレームワークの下、鳥獣特措法による被害防止計画と実務的に連携することが必要である。


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