| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


自由集会 W13-2  (Workshop)

「縮む社会」で求められる野生動物管理:研究と現場のギャップを埋めるために【O】
Bridging research-implementation gaps observed in wildlife management practices under depopulating societies of Japan【O】

*江成広斗(山形大学)
*Hiroto ENARI(Yamagata University)

 少産多死という未曽有の人口転換フェーズに踏み込んだ結果、縮む社会が顕在化する日本において、人と野生動物の生活圏はより近接するようになった。また、土地の空洞化が進行する私たちの生活圏では、野生動物に「恐れ」をもたらしてきた景観が消失することで、野生動物由来の「負の生態系サービス(生活・生業被害)」に日常的にさらされる機会が増加している。こうした負のサービスを効果的に低減できない理由として、対策に資する知識や技術の不足がしばしば指摘され、関連研究に予算も投じられてきた。しかし実際は、縮む社会に由来する社会の質的変化に伴い、「問題の解決意欲」や「共感できるゴール」を引き出すことができない現況にこそ問題の本質がみられるケースは多い。さらに、野生動物問題への対応が喫緊の社会的課題として認知される中で、公助としての対策を急ぐばかりに、行政や専門家がゴールを用意し、各種対策事業をトップダウンで展開させることで、現場の問題がより複雑化する例も少なくない。
 こうした研究と現場との間にあるギャップを埋めるには、野生動物管理を社会実装させる際のフレーミングの見直しが必要である。本発表では、縮む社会がいち早く顕在化しつつある東北地方の事例をもとに、その必要性について整理する。また、縮む社会における望ましい未来を支えるツールとしての野生動物管理の位置づけを明確にする作業を通して、今求められている課題、さらには生態学者のかかわり方について幅広く議論していきたい。


日本生態学会