| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


自由集会 W14-1  (Workshop)

植物のニッケル過剰症メカニズムと蛇紋岩植生形成への関与 ―植物栄養学の視点から―【O】
Mechanisms of nickel toxicity in plants and contribution to the evolution of serpentine plants – from the perspective of plant nutrition –【O】

*水野隆文(三重大学院生資)
*Takafumi MIZUNO(Mie University)

貧栄養,特異なミネラル比率,高金属,乾燥など,蛇紋岩土壌は植物の生育に対し様々な障害要因を有する.この土壌における一種独特の植生形成には,これらの障害が複合的に関わっていると考えられているが,本発表では蛇紋岩土壌に含まれるニッケルが及ぼす影響について考察する.蛇紋岩土壌を含む農地では作物にクロロシスやネクロシスなどのニッケル過剰障害が発生するが,これらの症状は鉄欠乏症と類似していることが指摘されている.演者らのグループは植物(シロイヌナズナ)の根におけるニッケル吸収が鉄(および亜鉛)の経路で行われていること,同時に植物に十分に鉄を与えて生育しても,培地へのニッケル添加によって植物は鉄欠乏の応答をすることを見出しており,いわゆる「鉄不足」自体がニッケル過剰症の原因ではないことを明らかにしている.一方,植物の体内において,鉄はニコチアナミンというキレート物質により葉緑体など必要な組織に輸送されるが,この物質は鉄よりもニッケルに対し高い親和性を有している.ゆえに,ニッケルを吸収せざるを得ない蛇紋岩土壌では,植物体内のニコチアナミンはニッケルに奪い取られ,葉緑体への鉄輸送が阻害を受けると考えられる.鉄は葉緑素の合成に必要な元素であることから,ニッケルの存在により,発芽直後の植物は生育に必要な葉緑素を得ることができなくなる.一方,ニコチアナミン合成酵素遺伝子の強発現により,植物が高ニッケル培地や蛇紋岩土壌で良好に生育すること,また蛇紋岩土壌で多数見つかっている金属超集積性植物ではニコチアナミン合成酵素遺伝子が高発現していることなどの報告もあることから,植物が蛇紋岩土壌へ適応するためには,発芽時及びその後の生育に十分な鉄を利用できる十分なニコチアナミンを生産することが必須であると考えられる.


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