| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


自由集会 W14-2  (Workshop)

湿地の仇は蛇紋岩の友 ―発芽時における植物の蛇紋岩適応への内生菌の作用―【O】
The enemy in the wetland is the ally in serpentine soil: Effects of endophytic fungi on serpentine adaptation in plants during germination【O】

*西野貴子(大阪公大院理)
*Takako NISHINO(Osaka Metropolitan University)

植物の蛇紋岩土壌への適応には、ニッケルなどの重金属過多や貧栄養といった植物の生育に適さない環境への耐性が必要で、移入時には生理的な順応が起きなければならない。このときに植物自体の生理的耐性だけでなく、植物に普遍的な内生菌の作用が蛇紋岩適応を促進した可能性について紹介する。
キク科多年草のサワシロギクでは、全国の湿地に生育する集団(湿地型)と東海地方の蛇紋岩地帯に生育する集団(蛇紋岩型)への生態的な分化が生じている。サワシロギクの蛇紋岩耐性は生育地のニッケル濃度に応じたものであり、蛇紋岩型間でもニッケル耐性に差が見られた。また蛇紋岩型の種子を滅菌すると、蛇紋岩土壌での発芽率が有意に下がり、発芽への微生物の関与が示唆された。そこで内生菌がサワシロギクに与える影響を評価し、蛇紋岩型の集団の成立過程と合わせて考えることで、内生菌が関わる蛇紋岩適応の道筋を推定した。
SNP解析の結果、蛇紋岩型の7集団は4つのグループに分けられ、それぞれ蛇紋岩耐性の違いを反映していた。この4グループの種子から得た糸状菌をCAS寒天培地で培養しニッケルのキレート作用の強度を測定したところ、大きなキレート効果を有する糸状菌の多くは、蛇紋岩耐性の強いグループに属する種子由来であり、分子同定の結果、一般に植物に被害をもたらす植物炭疽病菌であるColletotrichum属と判明した。また、サワシロギクの集団ごとにキレート効果の高い糸状菌の属は異なっていた。一方、Colletotrichum属でもキレート作用の強さはサワシロギクの集団ごとに異なっていたが、遺伝的には共通起源のものがあった。よって、蛇紋岩土壌への進入には、それまで共生している糸状菌の中から、それぞれの土壌環境に適した糸状菌との作用を強化し、蛇紋岩土壌に適応してきた可能性が考えられる。


日本生態学会