| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
自由集会 W14-3 (Workshop)
これまでの蛇紋岩帯の植生に関する研究では、多くの報告が草原生態系、草本植物を対象にしてきた。しかし蛇紋岩帯には森林生態系も存在し、その天然の維持機構の解明は、蛇紋岩生態系全体の保全と管理に資する。発表者らは、蛇紋岩土壌が分布する京都府北部の大江山を対象に、「どのように蛇紋岩帯で森林生態系が成立するのか」という問いに答えるべく、様々な生態学的側面から調査、仮説検証に取り組んできた。これまでの成果を振り返り、大江山の蛇紋岩帯における森林生態系の成立、維持機構を議論する。本発表では、有機物の分解と微生物群集に焦点を当てる。
分解を通じた植物―土壌間のフィードバックは、生態系維持基盤の根幹を成す。樹木の応答と同様に、重金属、乾燥、貧栄養を統合した視点から、蛇紋岩土壌における落葉分解速度の制御要因を明らかにする必要がある。そこで褐色森林土と蛇紋岩土壌で共通する3樹種を対象に、落葉の物理化学的形質を調べ、分解速度を比較した。蛇紋岩土壌由来の落葉は、褐色森林土に比べ、ニッケル濃度が高い、またはリグニン-窒素比が高いという特徴を有していた。全種において、蛇紋岩土壌由来の落葉の分解は遅かった。したがって、重金属以外にも、貧栄養、乾燥に誘発された形質変化が、落葉の分解速度に影響をおよぼすことが明らかになった。
落葉の形質以外にも、土壌中の微生物群集は有機物の分解速度と密接に関係する。市販の易分解性有機物(緑茶)を褐色森林土と蛇紋岩土壌で分解させると、蛇紋岩土壌において分解は遅かった。細菌と菌類の豊富さを調べると、蛇紋岩土壌で分解させた試料で菌類が豊富に存在することがわかった。したがって、蛇紋岩土壌のおける有機物分解は、褐色森林土とは異なる微生物群集によって駆動されていることが示唆された。
発表の最後ではこれまでの知見を統合し、大江山蛇紋岩帯の森林生態系における物質循環の全容と今後の課題を明らかにする。