| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
自由集会 W14-4 (Workshop)
撹乱後に森林生態系が修復される速さは、生物を取り巻くストレスの強さや種子の分散量によって左右される。特に蛇紋岩地帯の森林では、土壌中に存在する重金属がストレスとなり撹乱後の生態系の修復が著しく滞る。また、蛇紋岩地帯では土壌の鉱物特性が特殊であるために緩斜面でも山腹崩壊が起きやすく、人の手による能動的な生態系の修復が必要となる場所が広範囲となりやすい。一般に森林生態系の修復を進める上で土壌養分による生育の制限を受けにくいとされる窒素固定植物を人為的に植栽する方法が効果的とされているが、多数ある窒素固定植物の中でどの種がベストな生存率を示すか、ベストな種は撹乱跡地の立地条件によって異なるかなどは十分に検討されていない。そこで北海道大学研究林では、蛇紋岩地帯を含む15ヶ所の様々な環境条件の森林で人為的に山腹崩壊を起こすとともに、崩壊跡地に異なる窒素固定植物種を植際するプロジェクトを実施している。私たちの研究成果から、窒素固定植物の中でも、蛇紋岩土壌により生育へ悪影響の受ける程度は種によって異なることや、一見植栽木が生育しやすそうな緩斜面の山腹崩壊跡地ほど、エゾシカによる食害を受けやすく生存率が低くなることなどがわかった。これらの成果は、蛇紋岩地帯で発生した山腹崩壊跡地の森林を窒素固定植物を用いて修復する上では、特殊土壌への耐性や植食性動物にとっての嗜好性の種間差を考慮する必要性を示唆している。