| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
自由集会 W15-2 (Workshop)
シカ排除柵を設置し、シカの在/不在を実験的に操作することで、シカの生物群集への影響が検証されてきた。ただし、多くの研究は、シカが高密度化し影響が観察された後に排除柵を設置しており、高密度化に伴う変化過程を検証した例は少ない。また、北半球の森林は伐採や窒素負荷などの人為攪乱を受けており、シカの影響を評価する際にはこれらの要因も考慮すべきである。本研究は、人為攪乱下でシカが低密度から高密度になった際の林床植物の経年変化を明らかにすることを目的とした。シカが低密度に生息する北海道大学苫小牧研究林で、排除柵と人為的にシカを導入する高密度区を設定することで、シカ密度を3段階(ゼロ、低密度、高密度)にし、さらに人為攪乱(伐採、窒素負荷)を組み合わせた大規模野外操作実験区(25ha)を設定した。そして、林床植物全体および生活型ごとの種数と被度を9年間にわたり記録した。データ解析では、林床植物全体および生活型ごとの種数と被度を応答変数とし、シカ密度、人為攪乱、シカ密度と人為攪乱の交互作用を独立変数として解析した。独立変数は、毎年一定量の影響を与えるとする静的効果と、経年的にその効果が増大あるいは減少する累積効果を明示的に考慮した。解析の結果、林床植物に対するシカ密度と人為攪乱の影響の多くが経年的に増大あるいは減少していた。例えば、高密度のシカによる被度への負の効果は年々弱まったのに対し、種数に対する負の効果は累積的に増加した。また、シカ高密度による不嗜好種の被度増加は、伐採により促進された。これらの結果により、シカが林床植物群集に与える影響を評価するには、シカ密度が変化してからの経過年数、さらにはシカの個体数だけでなく人為攪乱の有無も考慮すべきだと示唆された。
発表では、同じ操作実験区を用いた昆虫、節足動物(ダニ、クモ)に対するシカ密度の効果を検証した研究例も紹介する。