| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


自由集会 W15-3  (Workshop)

集水域からのシカ排除に伴う土砂流出抑制と水生動物群集の応答:芦生研究林の事例【O】【S】
Soil runoff mitigation and changes in lotic animal community structures after a catchment-scale deer exclusion in Ashiu research forest【O】【S】

*境優(国立環境研究所), 福島慶太郎(福島大学), 中川光(土木研), 高柳敦(京都大学), 山崎理正(京都大学), 藤木大介(兵庫県立大学), 井上みずき(日本大学), 石原正恵(京都大学), 阪口翔太(京都大学), 高橋大樹(九州大学), 長澤耕樹(農研機構), 増田和俊(京都大学)
*Masaru SAKAI(NIES), Keitaro FUKUSHIMA(Fukushima Univ.), Hikaru NAKAGAWA(PWRI), Atushi TAKAYANAGI(Kyoto Univ.), Michimasa YAMASAKI(Kyoto Univ.), Fujiki DAISUKE(Univ. Hyogo), Mizuki INOUE(Nihon Univ.), Masae ISHIHARA(Kyoto Univ.), Shota SAKAGUCHI(Kyoto Univ.), Daiki TAKAHASHI(Kyushu Univ.), Koki NAGASAWA(NARO), Kazutoshi MATSUDA(Kyoto Univ.)

シカ個体群の拡大は世界各地から報告され、シカの過採食に伴う土壌侵食は河川への過剰な土砂流入と河床細粒化を招いている。芦生研究林では、ABCプロジェクトのもと生物多様性・生態系機能の回復を主な目的として2006年にシカを排除した2次谷流域が設定された。柵設置から2~4年後では、シカ排除流域で著しく植生が回復し、1次谷の河床細粒土砂被度と掘潜型の底生動物の生息密度はシカ排除流域で対照流域より低かった。一方、4年後では、流量が多く土砂の堆積作用より運搬作用が強い2次谷ではこのようなシカ排除効果は見られなかった。しかし、シカの過採食による土砂流入量の増加は、2次谷以下の下流部でも浮遊土砂量の増加を招くため、長期的には増加した浮遊土砂が下流部の底生動物群集に影響する可能性がある。そこで本研究では、8年後に1~3次谷を対象にシカ排除・対照流域で河床・底生動物群集構造を比較した。
 その結果、柵設置2~4年後と同様、1次谷では対照流域の河床が細粒土砂に広く覆われ、関連した底生動物群集構造の流域間差異がみられた。一方2・3次谷では、河床構造に差異がないものの、シカ排除流域の底生動物群集構造は固着型濾過食者によって特徴づけられていることが判明した。固着型濾過食者は礫に固着し流下する有機物を濾過して摂食するため、浮遊土砂量の増加は、餌資源の質の低下につながる。このことから、河床細粒化が生じにくい2・3次谷でも柵設置から8年が経過すると、シカ排除の効果が底生動物群集に反映されると考えられた。さらに、同流域下流部では、土砂の運搬作用より堆積作用が強くなる4次谷で1次谷と同様の河床細粒化が生じ、底生動物・魚類群集がシカの増加に伴い変化することが示されている。以上より、植生衰退/回復が河川生態系に及ぼす影響を時空間的に理解するためには、水・土砂移動に関連した河川地形学的プロセスを踏まえた現象理解が肝要である。


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