| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


自由集会 W16-1  (Workshop)

集合化と異質性による採餌-警戒トレードオフの克服【O】
Aggregation and heterogeneity mitigate foraging–vigilance trade-off【O】

*奥山登啓, 高橋佑磨(千葉大学)
*Takahira OKUYAMA, Yuma TAKAHASHI(Chiba University)

採餌行動と捕食者への警戒行動は二律背反的な行動である。そのため、両方の行動に十分な時間的資源を分配することは困難であり、採餌行動と警戒行動の間には負の相関が現れる。このようなトレードオフ関係は、「採餌-警戒トレードオフ」と呼ばれる。多くの先行研究では採餌-警戒トレードオフを個体レベルで検出しており、野外で普遍的に見られる群れ行動と、トレードオフの関係については十分に理解されていない。群れ行動においては、相互作用する個体の数に由来する「集団化の効果」と、相互作用する個体の質に由来する「異質性の効果」が知られる。本研究では、遺伝的に異なるキイロショウジョウバエ83系統を用いて、集団化と異質性の効果がそれぞれ採餌-警戒トレードオフ関係に与える影響について検証した。実験には、単一の系統1頭で構成した個体条件、単一の系統6頭で構成した同質な集団条件、2系統を3頭ずつ混ぜて構成した異質な集団条件を用意し、円形アリーナでの行動を10分間記録した。トラッキングデータをもとに、前半の5分間で採餌行動の指標となる網羅性を、後半の5分間で警戒行動の指標となる恐怖刺激への応答性を算出した。多目的最適化によって、トレードオフ下での相対的な行動パフォーマンスを3つの条件間で比較したところ、個体に対して同質な集団条件では明確なパフォーマンスの向上が見られるとともに、負の相関が現れた(採餌-警戒トレードオフ)。一方で、同質な集団に対して異質な集団では、さらにパフォーマンスが向上し、負の相関が全体として右上にシフトするトレードオフの解消が見られた。一連の研究成果は集団レベルにおいて個体レベルと異なる採餌-警戒トレードオフの傾向が見られること、とくに遺伝的な異質性を伴う集団ではトレードオフが部分的に解消される可能性があることを示しており、群れ行動における集団構成の役割を理解する重要な知見となる。


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