| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


自由集会 W16-3  (Workshop)

bet-hedging(両賭け)は適応度の平均値と分散のトレードオフを緩和する【O】
Bet-hedging mitigates the mean-variance trade-off of fitness【O】

*安井行雄(香川大学)
*Yukio YASUI(Kagawa University)

Bet-hedging(両賭け;以下BH)の古典的定義は当該遺伝子型が達成する適応度の世代内平均値と世代間分散の間のトレードオフである。遺伝子型の絶滅回避のためには世代間幾何平均適応度を高く維持する必要があり、そのためには世代間の適応度の振動を低く抑えなければならない。これはコストがかかるため各世代では平均適応度は低下せざるを得ないという意味である。しかしながら遺伝的または後天的にコンディションの高い個体にとっては、遺伝子型レベルで適応度振動抑制のコストを払っても表現型レベルでは世代内平均適応度が低下しないこともありうる。このトレードオフは潜在的なものであり、実証研究においては必ずしも検出されない。Yasui(2022)はコンピュータシミュレーションによってこのことを立証し、BHを「予測不能な環境変動に対してその支配遺伝子型の絶滅を防ぐために世代間幾何平均適応度を増加させるような全ての戦略」として再定義した。BHの背景となる根幹概念がenvironmental grain(環境粒度)である。粒の粗い環境では同世代の全ての個体が同じ条件を経験するのでスペシャリスト(非BH)遺伝子型は世代間で大きな適応度の変動を示し幾何平均適応度は低くなる。それゆえ危険回避または分散を図るBHが有利となる。しかし粒の細かい環境では、同じ遺伝子型でも異なる個体は異なる環境を経験する。不運な個体の低い適応度を幸運な個体の高い適応度が補償するので世代間幾何平均適応度は低下しない。しかし従来認識されてきたように「粒の細かい環境ではBHは効果的に働かない」と言うよりも、「多数のスペシャリスト個体の存在がBHとして働くようになる」と言ったほうが正確である。全ての生物は繁殖する。繁殖とは同一遺伝子型の予備個体を作ることで環境粒度を下げるBHである。ゆえにBHは生物学の根本原理である。


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