| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
自由集会 W18-1 (Workshop)
生物群集の状態を決定する支配要因の探求は生態学の黎明期から現在に至るまで生態学の中心的な関心であり続けている。これまでに、さまざまな系について生物群集のパターンが観察され、その理論的説明が試みられて来た。しかし、ほとんどの場合、群集パターンの支配要因は系特異的で場合によるという答えだった。近年ではVellendが集団遺伝学の理論を援用し、多くの理論に統一的な説明を与える「生物群集の理論」を提唱したが、Vellend自身が強調するようにこの理論の対象は水平群集(同じ栄養段階の生物)のみに限られており、生物群集全般に適応できる一般理論は未だ発展の途上にある。同時に、観測技術や理論も発達を続けている。
ここでは、生物群集のパターン観察における進展を紹介する。これまで生物群集の観察は技術的限界から最大でも数十種程度の種数に限られていたが、細菌群集を対象に群集動態を長期観察することで、数百種を超える多種群集の組成の移り変わりを取得できるようになった。観察データにエネルギー地形解析(energy landscape analysis)を適用することで、細菌群集の組成と安定性の関係を分析すると、各群集組成に対して算出された安定性指標は群集動態の予測に有効であった。エネルギー地形解析は決定論的なプロセスのみを仮定しているため、多種群集においても決定論的に群集状態が規定されていることが示唆される。
本発表では生物群集を制御可能な系として捉えようとしてきた過去の試みも概観し、生物群集の理論の現在地を探りたい。